60半ばの先生との会話
自分の幼馴染の同級生は定年退職し、残りの人生を海外旅行などに行き楽しんでいる。
もうこんなうっとうしい仕事、さっさと辞めたい、もう痛いと言ってきても「知らんわー」と言われ笑われていた。
私も思わず笑みがこぼれた。
確かに長年しているとそう思う時もある。
どの職業でも、一度は辞めたいと思う、そういう時期がある。
大学を卒業してから勤めた歯科医院では、ほぼ見学に近く、技術も未熟なため患者さんとのコミュニケーションも取りづらかった。
院長先生に代わってほしいと言われたこともあった。
職場では衛生士の方ができる。
新米歯科医師は職場では肩身の狭い思いをしなければならない。
誰もが通る、避けては通ることができない道。まずここをクリアしなければならない。
次に勤めた歯科医院は、1日の来院数が100人を超える歯科医院。
ここの歯科医院では人の3倍の患者さんを診させていただいた。
昼休みも時間を惜しみ、抜去歯牙でこの歯科医院を辞めるまで練習は続けた。
それから開業、開業してから数年はガムシャラに良く勉強した。経営の勉強、自分のスキルをあげる勉強。
歯科医になって25年近くになるが、痛みが取れなかったり、痛みを出してしまったりすることがある。
こういう時は本当に心が痛む。
仕事をしていく中でいいことばかりではない。
すべての人が、痛みが取れて有難うございましたと笑顔で帰ってくれることはない。
しかし少しでも多くの方に、笑顔で帰って頂きたい。
その為に努力を惜しんではならない。
むし歯は削るのではなく、むし歯になった原因を探ることがその近道となる。
むし歯を治療することが我々の仕事ではなく、むし歯を無くすことが本当の我々の仕事だ。
救命救急のテレビを見ていると、ドクターが救える命、どうしても救えない命があるといっていた。
心臓マッサージを一生懸命している姿を見て、何とも言えない気持ちになった。
救えなかった時の無力さ、我々歯科医療にも通じると感じた。
医療に携わる者は、向き合った結果の「無力さ」を経験する。
しかし「無力さ」から逃げてはいけない。
私も救命救急医のように、一生懸命患者と向き合い、最善を尽くしたい。