この2年の間に両親が亡くなった。父が亡くなった時は父に負けないように頑張ろうと思ったが、母が亡くなった時はwell-beingって何なんだろう?死んだら何もかもおしまいだと私は感じてしまった。我々の目指すことは人々の「well-being」元気で幸せな人生をサポートすること。長い人生の道のりには安定している時期もあるが、安定していない時には私たちは山登りのガイドのように、危ないところで手を差し伸べ、時には励まし、道が荒れていたら仲間と一緒に整備する。そして無事に山頂に立ち、安全に降りて来られるように見守ることが我々の役目と思っていた。しかし両親の死に直面し「well-being」について深く考えるようになった。生まれてから、元気で幸せな生涯を送り、そして寿命を迎える。この「最期」を我々はどうサポートすることができるだろうか?今まで何十人もの往診患者を見送ってきたが、他人ゆえその方の一部分しか見えていなかった。しかし両親の傍につき、一部始終を見ることができたのは私の人生観を大きく変えた。私が歯科医師として嬉しく思えたのは、担当の看護師から、さすが「歯科医のお母さん」お口の中が綺麗と言われたことである。母の口の中が綺麗と言われたことが嬉しいのではなく、この看護師が一人一人の口腔内をきっちりと見てくれていたことにある。苦しみを取るために鎮静剤投与後に現われた、口の中の変化がこんなにも顕著に現れたのは驚きであった。口の機能が低下した瞬間、口腔内の汚れが目立った。これまでは少しずつ汚れが蓄積してくるものだと思っていたが、母は死をもって我々に経験させてくれたのである。先天的な病、そして今まで健康だった人が突然、目が見えなくなったり、喋れなくなった時、また余命を宣告されたとき、その方の「願いを叶えてあげること」が一番だとは思うが、我々はこの方たちとどう向き合いサポートすることができるだろうか?