口を開けようとすると耳の辺りが痛くなったり、あごが「カクカク」と鳴ったりする顎関節症は、推定 1900万人いるとされています。要因として、習慣的に上下の歯が触れている歯列接触癖TCH(tooth contacting habit)が注目されています。
あごの関節に異常が生じる主な理由は、歯ぎしり(bruxism)や食いしばり(tooth clench)、転倒による負傷などです。ストレスが強かったり、集中してパソコンやスマートフォンの画面に見入ったりすると無意識に食いしばることがあります。睡眠の質が悪いと歯ぎしりが増えます。長時間、歯と歯を接触させている状態が続くTCHは顎関節症の一因となります。
あごの関節の痛みが強い場合は安静にして鎮痛薬を服用し、炎症を抑えます。筋肉の痛みがある時は、患部に蒸しタオルなどを当てれば血行が良くなり、症状改善につながります。口を10〜30秒ほど開けるストレッチも効果的です。朝晩5〜10回行うといいでしょう。
「スプリント」と呼ばれるマウスピースを歯にかぶせる治療もあります。就寝時に装着すれば、寝ている間の歯ぎしりを軽減できます。治療は保険の対象となります。
顎関節症を予防するには、日頃からあごの関節やその周囲の筋肉に負担をかけないよう心がけ、上と下の歯がくっついていると気づいたら離すようにしてください。頬づえをついたり、ガムを長時間かみ続けたりすることも避けましょう。眠っている時に歯ぎしりをしないよう、睡眠の質を高める心がけも重要です。就寝前にスマートフォンを見ると、睡眠の質が下がってしまうので要注意です。
ブラキシズムとは
ブラキシズムというと、睡眠中に行われる「歯ぎしり」や「くいしばり」というイメージが強いですが、実際は起きている間、すなわち覚醒中にも生じています。この覚醒中のブラキシズムとして、TCH (tooth contacting habit) という行動が注目されています。ブラキシズムは補綴物の破折や脱落,歯冠破折や歯根破折、くさび状欠損,知覚過敏,歯周病の悪化,顎関節症,非感染性の歯痛、舌痛など、顎口腔系に様々な害をもたらします。
2018年にブラキシズムに対する新しいコンセンサスレポートが示されました。
“Sleep and awake bruxism are masticatory muscle activities that occur during sleep (characterised as rhythmic or non-rhythmic) and wakefulness (characterised by repetitive or sustained tooth contact and/or by bracing or thrusting of the mandible), respectively.”
つまり、ブラキシズムは睡眠中に行われる睡眠時ブラキシズム(SB:sleep bruxism)と、覚醒中に行われる覚醒時ブラキシズム(AB:awake bruxism)に区別され、いずれも反復性の咀嚼筋活動のことを示しています。この咀嚼筋活動に伴い歯ぎしりやくいしばりなど、上下歯の接触を伴う場合もあれば、下顎の突出やこわばりなど歯の接触を伴わない場合もあります。上下歯の接触が生じれば、補綴部破損や歯根破折などを引き起こす可能性があり、歯の接触がなくても下顎のこわばりなどによって非機能的な咀嚼筋活動が続けば、咀嚼筋や顎関節に負荷が加わり、顎関節症状を引き起こします。
TCH とは
tooth contacting habitの略で、「contacting」という部分が実は非常に重要になってきます。
覚醒時ブラキシズム(AB:awake bruxism)は、「くいしばり」「tooth clench」という言葉で使われることが多く、大きな合力では持続が困難ですが、小さな咬合力では長時間持続することが可能です。つまり、くいしばり(tooth clench)は持続困難で、歯の接触(tooth contact)は持続可能ということになります。「tooth contact」を持続している状態が「tooth contacting」、「tooth contacting」がより長時間化し、日常生活において習慣(habit)として定着したものが「tooth contacting habit」となります。すなわち、TCHとは「上下の歯を接触させたままにする行為を繰り返す習慣性の行動パターン」であり、上下歯の接触自体を表すものではありません。
TCH はなぜ生じるのか
デスクワーク中やスマートフォン操作時は,頭部を前傾させてややうつむくような姿勢を取ることが多く、このとき、下顎はわずかに前方に移動するため、上下の前歯同士がぶつかりやすくなります。上下歯の接触によって歯根膜に持続的な力が加わると咬筋に反射性の活動が生じるといわれており,これを「緊張性歯根膜咬筋反射」といいます。また,ストレスや集中,過度の緊張によっても咬筋の活動性が上昇します。このような理由によって閉口筋である咬筋の収縮が持続し、上下歯の接触状態が維持され、TCHへと発展していきます。
