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その歯痛、本当に歯が原因?非歯原性歯痛

歯が原因ではない歯痛を非歯原性歯痛という。

1、筋・筋膜性歯痛(筋性歯痛)

1) 筋・筋膜性歯痛とは?

咀嚼筋が疲労すると筋痛が生じ、患者がこの筋痛を「歯痛」と錯誤したものを筋・筋膜性歯痛といい、肩こりからも「歯痛」は生じる。筋が疲労すると、筋中にトリガーポイント(TP)と呼ばれる圧痛点が発現し、筋の痛みが悪化すると圧痛のみではなく、自発痛も生じる。臨床上問題になるのは、この自発痛が、痛みの発生源から離れた部位に生じることを関連痛という。

2) 異所痛とは?

疼痛発生源と疼痛部位が異なる痛みを「異所痛」といい、主訴が上の歯であったが、原因は下の歯であったというケースである。また歯痛で肩こりが生じることも多い。異所痛のメカニズムは、外部から入った痛みは、まず電気信号に変換されて一次ニューロンを伝わり、延髄/脊髄で二次ニューロンに乗り換えて脳の視床に、さらに三次・四次ニューロンを経て、最終的に大脳皮質や辺縁系に到達し、「痛みである」と知覚される。部位の錯誤が生じるのは、一次ニューロンから二次ニューロンに乗り換える延髄/脊髄部分で、多数の一次ニューロンが二次ニューロンに収束するため、二次ニューロン以上では、一次ニューロンから入った異なる部位の刺激を区別できなくなり、「上の歯と下の歯を間違える」という現象を引き起こす。

3)診断的麻酔

歯の痛みなのか、筋からくる痛みなのかを診断する方法として「診断的麻酔」という概念がある。末梢のある部位に痛みの原因があるのであれば、そこに局所麻酔を行えば痛みは消失する。歯ではなく、咀嚼筋が原因の「歯痛」であれば、歯に麻酔をしても痛みは消えない。しかし患者は麻酔により痛いのかが分からなくなってしまうことが多いので、疼痛発生源である筋のTPに直接麻酔を行う。TPへの麻酔で、それまで感じていた自発痛が消失すれば、筋から生じた歯痛(筋・筋膜性歯痛)である。治療は、筋のマッサージやストレッチなどの理学療法を中心に行う。

2、神経障害性歯痛

神経障害性歯痛とは,神経障害性疼痛によって生じる歯の痛みをいい、発作性と持続性に大別される。持続性でよく知られているのは、抜歯による下顎神経の損傷で生じる下口唇の感覚鈍麻やアロディニア(軽い接触で強い痛みが生じる現象)などである。

帯状疱疹性歯痛

帯状疱疹は、子供の頃に感染した水ぼうそうのウイルスが,宿主の感覚神経節に潜伏し、加齢や疲労で宿主の免疫力が低下した際に活性化して生じる再帰感染である。

帯状疱疹性歯痛の臨床経過

1)ある特定の歯に突然疼痛が発現し、数日間で著明に増悪する。

2) ピーク時には睡眠障害をきたすほどの激痛となる。

3)歯痛発現から疼痛が収束するまでは、約7~10日間の経過である。

4)口腔粘膜に水疱・びらん・潰瘍を形成するものが多い。

5)帯状疱疹後神経痛を後遺することがある。

3、神経血管性歯痛(TACS,片頭痛)

片頭痛などのように、脳の血管に一過性の炎症が生じるために起こる頭痛を「神経血管性頭痛」といい、片頭痛患者が、頭痛よりも歯痛や顔面痛を強く訴えることを「顔面片頭痛」と通称されている。さらに片頭痛よりも「歯痛」を起こしやすい頭痛を「三叉神経・自律神経性頭痛(TACs=タックス :TrigeminalAutonomicCephalalgias)」という。TACsは顔面片側の発作性の激痛を特徴とし、群発頭痛,発作性片側頭痛、SUNHA (サンハ)、持続性片側頭痛の4種類があるが、いずれの患者も歯痛を主訴に歯科を受診するという報告がある。

以下に代表的な群発頭痛について解説する。

群発頭痛

群発頭痛は、上顎最後日歯の痛みとして自覚される場合があるため、患者の34%が歯科を受診し、16%に抜歯が行われたという報告がある。治療の中心は薬物療法で、ベラパミルによる予防療法とトリプタン類による頓挫療法の組み合わせで行う。発作の頓挫には、酸素吸入も8割で有効である。

群発頭痛の特徴

20〜40代で初発

5:1で男性に多い

周期性:1~2年ごとに決まった時期に巡ってくる(2年ごとの10月など)

発作頻度:1日8回~2日に1回(平均1日2回)

持続時間:15~180分(平均1時間)

部位:眼窩を中心に上顎最後臼歯・側頭部

性状:焼け火箸を目に突っ込まれるような激痛

強さ:想像できる最悪の激痛(VAS 100/100)

発作中の行動:激痛のためじっとしていられず歩き回る、のたうちまわる

随伴症状:発作中は患側に自律神経症状を伴う

夜間睡眠中に発作が生じることが多く、痛みで覚醒する

群発期中は飲酒で発作が必発する

4、上顎洞性歯痛

上顎洞の炎症が歯に波及して痛みが生じる。原因の歯痛は、患側の上顎小臼歯から大臼歯部(通常5か6)にかけての1~2歯に発現する自発痛として感じられ、打診痛を伴う。通常冷温水痛は認められない。冬に多く、問診すると多くの場合「風邪を引いている」、歯痛と同側の「鼻が詰まっている」ことが聞き取れるため、ここが鑑別の手がかりとなる。両側の上顎洞前壁を親指の腹で指圧すると、患側に疼痛を訴える。確定診断はX線写真やCT、MRI、治療は抗菌薬による薬物療法が中心となり、耳鼻科との連携が必要となる。

5、心臓性歯痛

虚血性心疾患で歯痛が生じることはよく知られている。特徴は、痛みは発作性に生じ部位は喉の上部や下顎に多く10分以内に消失する。トーマス・マンの小説「Buddenbrooks(ブッデンブローク家の人々)」の主人公トーマスは歯の痛みを訴え、歯科で抜歯直後に死亡した。死因は心筋梗塞によるものであったことより、虚血性心疾患による下顎の痛みを歯科疾患と誤診することを Buddenbrook syndrome と言われた。

心臓性歯痛の特徴

診断のポイントは痛みが発作性に生じること

部位:頭顔面部痛の場合は86%は両側性

運動との強い相関性を認め、寒さや興奮などで「歯痛」が生じるときは注意が必要

性状:漠然とした鈍痛

強度:軽度から中等度

◆狭心症の場合

発作の持続時間は数分~10分以内

ニトログリセリンの舌下投与で20〜30秒以内に疼痛が消失

◆心筋梗塞の場合

歯痛は数時間にわたって生じる

緊急性がきわめて高いため、救急車で搬送する

6、精神疾患または心理社会的要因による歯痛

うつ病や双極性障害,不安障害,統合失調症,パーソナリティ障害などの患者が、精神疾患の身体症状として歯痛や顔面を主訴に受診することがある。精神疾患は患者が自己申告しない場合が多いが、初診時に行う「お薬手帳」のチェックで、抗うつ薬や抗精神病薬を服用していることから推察できる。精神疾患が疑われる場合は、精神科医と連携しながら、疼痛管理を行っていく。

うつ病の判定基準

中心症状

1)抑うつ気分

2) 興味または喜びの消失

副症状

3)食欲の減退(または過食)。体重の減少(または増加)

4)睡眠障害

5) 精神運動機能の障害 ・強い焦燥感あるいは逆に精神運動機能の停止

6)疲れやすさ、気力の減退

7) 強い罪責感

8)思考力や集中力の低下

9) 自殺への思い(希死念慮)

7、特発性歯痛(非定型歯痛)

「特発性」とは「原因不明」を意味する用語で、歯科でよく見られるのは、起きている間中持続する、じんじん・じわじわと表現される疼痛である。患者の3~4割はうつ病か不安障害の既往があるという報告もある。近年の機能的脳画像研究の進歩により、損傷がなくても,不快な刺激や心理状態などによって、痛み情報を処理する脳のネットワークが活動し始めることが証明されている。そして現在では、このような原因不明の慢性疼痛は、「非器質的疼痛」または「中枢機能障害性疼痛」と呼ばれ,中枢性の疼痛だと認識されるようになっている。歯科治療が原因の場合は、治療中の不安や恐怖から慢性疼痛に陥る。治療は、薬物療法と認知行動療法の併用が推奨されている。薬物療法の第一選択は、痛みや興奮を抑制すると考えられている抗うつ薬である。この疾患の患者は「歯が痛い」と自覚しているため、歯科医師の診察を強く希望するため精神科医との連携が必要である。

特発性歯痛の特徴

歯または抜歯した後の部位に生じる痛みで、臨床的な異常は全く認められない

疼痛は一歯に限局しているもの,多数歯に生じるもの,顔面痛に拡大するものなど様々

有病率は高い

子供を除いて,どの年齢にも生じ得るが、閉経後の女性に多い(平均受診年齢55歳)

大・小臼歯が好発部位(下顎<上顎)

7割が歯科治療契機で発症

正しく診断されるまで平均4〜5年(患者は痛みの診断を求めて、歯科を始め耳県科、内科、脳外科などを転々とする)

摂食時には痛みは改善する

8、その他の様々な疾患により生じる歯痛

悪性腫瘍、血管炎、頸椎、新生物、迷走神経反応、薬物の副作用などの様々な原因で「歯痛」が引き起こされることがある。

通常の歯痛と非歯原性歯痛の鑑別法

歯原性歯痛であれば、かむと痛い、冷温水痛がある、食事中に悪化するなどの特徴があり、痛む歯に診断的麻酔を行って痛みが消失する場合は、その歯が歯原性である可能性が大きい。非歯原性歯痛の場合は、痛みに見合うだけの所見がなく、一定の痛みからか数月から数年にわたり持続し、痛みの部位が変化し移動する。繰り返し数十分間生じる発作性の痛みなどの特徴がある。

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